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針ねずみのジレンマ

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SSとか。絵とか。日記とか。
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一人の少女が、遠い青空を見上げている。
じわじわと体温を奪う冷たい雪の大地を踏みしめ、両手に銀の銃を持ち、周りに赤の花を散らせて立ち尽くす。
「春になればとけてしまうの?」
ぎしぎしと雪を踏みしめる音をたて、兄が近寄るのを目で見ず感じ、つぶやく。
「なまえはとけてしまう?ゆきはきえるの」
視線の先には、海からふぶく風に乗ってやってくる雪の粒。
「手があつい…ああ、とける、とける」
銃をとり落とし、掌を見る。
白すぎるそこに触れた雪は、透明になって消えた。
「大丈夫だよ、ユキ」
後ろから兄が抱きしめる。
「おまえの肌が白くて白くて、あんまりきれいだから、ユキという名前にしたのさ」
「しろい」
「そう。そしておまえの手が…心が。あんまり冷たいものだから、ユキという名前は、おまえのものになったんだ」
「つめた…い」
壊れた心。もとにはもどらない。
「だから大丈夫。それでもいやなのなら、春が怖いのなら、」
ふ、と兄の眼に冷たい光が宿る。
薄いほほえみ。気が狂っているなどと言われても、そんなこと気にならない。
「おれが追い払ってあげる」
全部、全部、おまえの怖がるものなんか、何一つ許さない。
「あは」
ユキが笑う。走り出す。
「あははは、あははははは、」
くるくると回り、倒れた異形の血肉の上で、ステップを踏む。
「しあわせ、ユキ?」
「あはは」
笑い踊る妹を、これ以上ない幸福を見るように目を細め、にんまりと口をゆがめる。

降りしきる雪の中で、二人だけが幸せで、正しく、春を待つことを知らない命だった。


(イミフ)
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プロフィール
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はと/某
性別:
女性
自己紹介:
ECOは四葉鯖でガンナーメイン、サブでネクロ。
IMAGINEはケルベロス鯖でガンナーメイン、サブで魔崩やってます。
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